
部屋に帰りテレビをつけると、夜のニュースが流れていた。途中から地元の局に切り替わる。
「今日午後、下りの新幹線こだま号で女性の変死体が発見されました。静岡県警が指揮を執り広域捜査が行われています」
文を訪ねてきた刑事たちは、文が若林は踊り子号に乗っていたと証言すると、それ以上は何も言わずに帰って行った。あれは、この事件の捜査だったのだろうか。
若林が疑われ、文のもとへアリバイの確認に来たのか。
若林は踊り子九号で文と共に伊東へやって来た。こだまの車内で殺人があったのは、その頃だったということだろう。
そう言えば人当たりの良い若林は女性客に受けが良く、過去に数回トラブルを起こしたと噂に聞いたことがあった。その被害者も若林となんらかの関係があった女性なのかもしれない。
「モテる男は辛いわね」
とにもかくにも、文の証言で若林の疑いは晴れたようだった。

すっかり酔いも醒めた文は、再び大浴場へと向かった。また露天風呂に浸かりながら、真っ暗になった海を眺める。遠くに微かな灯りが見えた。あの辺りは房総半島なのだろうか。
房総へ行くなら、菜の花の時期に行ってみたい。在職中に訪れた、千葉県の観光促進イベントで見た菜の花畑の写真を思い出す。
そう言えばあのイベントでも若林と顔を合わせた記憶がある。文はいつしか、今日踊り子で一緒になった若林の様子を思い返していた。
「踊り子で若林さんと一緒だった、ちょっと違うわね。東京駅で若林さんと会った、一緒に踊り子に乗った、が正しいかも」
若林は何号車に乗っていたのだろう。伊東へ着く前にはわざわざ文のいる五号車まで来てくれた。
「で、一緒に降りた」
一緒に乗って一緒に降りた。
だが一緒に乗っていたわけではない、とふと思い立つ。
文は学生時代からの友人に電話をかけてみることにした。



